家族信託について
昨今、高齢化がますます進み、内閣府によると2025年には約700万人、65歳以上の5人に1人が認知症になると言われています。
認知症により判断能力が衰えてしまうと、自身で預貯金の管理や不動産の処分、相続手続き等の法律行為が行えず、財産の管理に様々な制限がかかってしまいます。
そこで今回は、判断能力が衰えてしまった場合の備えとして利用できる「家族信託」について記載します。
1.家族信託とは
家族信託とは、契約で自身の財産の管理・処分を家族に託す制度で、管理・処分を託した財産を「信託財産」といいます。
契約書には以下のような内容を記載し、公正証書で作成することが一般的です。
(1)信託の目的
(2)受託者・受益者(通常、委託者と受益者は同じ方がなる場合が多いです)
(3)財産の管理・処分方法及びその範囲
(4)契約の期間
(3)財産の管理・処分方法及びその範囲
(4)契約の期間
例えば、不動産を所有している父(委任者)が、子(受託者)に不動産の管理・処分を任せ、その管理・処分で発生した利益は父(受益者)が受け取るといった内容の場合、不動産(信託財産)は法律上・税務上ともに父が所有していることになりますが、父の判断能力が衰えた場合や介護が必要になった場合でも、子は単独で不動産の修繕や売却等の管理・処分が行えます。
また、家族信託には遺言的役割もあり財産の承継先を決めておくこともできます。
(承継先を決めておけるのは信託財産のみに限ります。)
上記の例では、父(委任者)が亡くなった後は子(受託者)が不動産を引き継ぐように記載しておくことも可能です。
さらに、家族信託では遺言にはできない二次相続以降の財産の承継者を指定しておくこともできます。
例えば、前妻との間の子と後妻がいて、自分が亡くなった後は財産を後妻に承継し、後妻が亡くなった後は前妻との間の子に財産を承継させるということも可能です。
2.信託財産について
主な信託財産には以下のものが挙げられます。
(1)不動産
契約後は信託財産であることを公示するため受託者に名義変更(信託登記)をします。
これにより不動産の修繕、売却等の管理・処分は受託者が行えます。
また不動産の賃料や売却益等の利益は受益者が取得します。
(2)現金
契約後は信託口口座を開設し、そこで信託された現金や売却益等を管理します。
また委任者へは生活費や医療・介護費として金銭を給付することができます。
なお、契約書に記載する際は口座番号等を記載するのではなく、現金〇円で記載します。
(預貯金口座は譲渡禁止債券のため。)
(3)有価証券
(2)と同様に信託口口座を開設し、そこで管理・処分(運用)をします。
しかし、証券会社によっては家族信託に対応していない場合もあるため、契約書を作成する前に確認が必要です。
3.任意後見制度との違い
家族信託と似たような制度として「任意後見制度」があります。
これは契約で判断能力が衰えた後の財産管理及び管理する者等を事前に決めておく制度です。
家族信託との違いは以下のとおりです。
(1)契約は委任者の判断能力が衰えた後に履行され、委任者が亡くなったら契約は終了
→家族信託では始期終期を自由に決められる
(2)家庭裁判所への報告義務がある
(多くの場合は士業が任意後見監督人に選任され、任意後見人に目録等の提出を求めます。)
→家族信託では報告義務はなし
(3)財産の積極的運用は不可(財産の維持が基本)
→家族信託では権限内で自由に財産を管理・処分できる。
(4)身上監護権が認められている
→家族信託では認められていない
このようにそれぞれ違いがありますので、利用される際には専門家に相談されることをおすすめします。
最後に
相続では家族信託が相続人の遺留分の関係で問題になることがあります。
(遺留分については、別の記事にも記載していますのでご確認ください。)
信託財産も遺留分の対象となりますので、遺留分権利者が財産を受け取れるように家族信託や遺言、生命保険、生前贈与等でフォローする必要があるでしょう。
また、契約を結ぶ前には事前に家族会議をし、ご自身の想いを伝えていただきたいと思います。
FUJITA札幌相続センターでは相続手続きの代行をしております。
相続手続きはご自身で行うことも出来ますが、お困りの際はお問合せください。